インタビュー『せんめんじょできっちんで』ができるまで③“詩と絵の対決”をまとめ上げた、デザインのひみつ

詩人 ウチダゴウ×絵本作家 ザ・キャビンカンパニー×デザイナー 髙田唯

「オバケ?」展をきっかけに生まれた、異色のオバケ絵本『せんめんじょできっちんで』

詩人 ウチダゴウ、絵本作家 ザ・キャビンカンパニー(阿部健太朗、吉岡紗希)、デザイナー 髙田唯と、版元のブルーシープ(草刈大介、竹下ひかり)が絵本づくりについて語り合いました。安曇野、大分、東京をオンラインでつないで繰り広げられた、絵本ができるまでのもうひとつの物語。3回に分けて、お届けします。

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 聞き手・構成・文/天田泉
*敬称略

安曇野、大分、東京をオンラインでつないで、行った鼎談。
左上から右下へ天田、竹下、ウチダ、ザ・キャビンカンパニー、髙田、草刈。

― ようやくデザインの話になりますが、髙田さんはどの段階からこの絵本に関わられたのですか?

髙田唯 キャビンさんのモノクロのスケッチの状態で、ラフは見ていた感じですね。もちろん原画も見させていただきましたけど、本当にすっごい痺れましたね。印刷だと、物理的に原画をそのまま再現することはできない。なので、頭を切り替えなくちゃいけない部分が出てきてしまうんですが。やっぱり色ですね。今回、蛍光のピンクを特色*で追加していますが、これはもう必須というか、それが全体的に良い影響を及ぼしているなと。青い髪のところにも実は蛍光ピンクが入っていたりしていて、それが鮮やかな青を演出しています。今回、黒と蛍光ピンクと鮮やかな青っていうところが柱になっていると思っていて。原画を見ていただくとわかるんですけど、ゴールドとかシルバーとかも結構、使われている。本当はそれも再現できたら最高ではあったんですけれどCMYKに切り替えて、そうした制約も楽しみながら関わらせていただきました。

*CMYKの4色以外であらかじめ調色された色のこと。

ザ・キャビンカンパニー 吉岡紗希 どうデザインされるかなと思っていた。私たち結構クセが強いから、デザインをする人には、いつもかっこよくしてもらいたいんですよね。散らかったまま渡したのを、整理してほしいというか。今回、本当にもう見事にまとめ上げてくれた上に髙田さんの匂いも混ぜ込んで素晴らしいものになっている。

キャビン 吉岡 この表紙もよかったな。

キャビン 阿部健太朗 ここを分けたのも最高だった。

髙田 カバーと表紙をね。

文字を揺れるようにデザインした。

キャビン 阿部 あとこの字の入れ方ね、かなり攻めてますね。

キャビン 吉岡 思ってもみなかったですよ。コミカルさもあるけど、ちょっと恐怖みたいな。書体だけでこんな表現できるんだって。

キャビン 阿部 でも、やっぱり詩の絵本だからできるっていうのはある気がしますね。これが物語の絵本だとね、読みにくかったりすると思うんで。

髙田 割と自然体にこうなりましたね。もちろんデザイナー的な欲みたいなものも、なくはないんですけど。今回は、キャビンさんとゴウさんの対決をどうまとめるのかっていう“レフェリー”をしなくちゃいけない。実はすごく緊張してやってました。ゴウさんの詩もずっと見てきているので、どう触るのかっていうのはやっぱり恐怖心もありましたし、文字で遊んで良いのかどうかっていうところもそうだし。キャビンさんの絵をどのように印刷で再現するのかっていうところで、実はめちゃんこずっと緊張してましたね。印刷立会いまで緊張してましたけれど、終わったらすっごく解き放たれて、ようやく楽しんで見れてます(笑)。

キャビン 吉岡 ここ(本体の表紙)にタイトルを入れないって、こういうことができる人が緊張してるとは思えない(笑)。

キャビン 阿部 色は本当によかったですよ。初校からめっちゃ出ていると思って。

髙田 そう言っていただけて何よりです。僕ができることとしては、本の構造だったり連続したグラフィックも含めて考えることが役割だと思っていたので、その上で何か面白いアイデアが出せたらと。普通だったら多分できないようなことも、ブルーシープさんだから実験もさせていただきましたね。

ーネタバレになるので、ここでは詳しく話せませんが、この絵本を手にした人のお楽しみとして、ちょっとしたサプライズも潜ませているのですよね?

髙田 はい。パッと思いついたアイデアが採用されました。そのサプライズが、どのような効果を出していくのか、すごい楽しみにしています。

キャビン 吉岡 物語と読み手をつないでくれるものですよね。

―デザインで言うと、前にちらっと話が出ましたけど、表紙の絵は髙田さんがバックを黒くされた。

髙田 そうですね、「ちょっと気をつけなさいよ」っていうような忠告をしたかったと言いますか。そういう(怖い)本だよっていうのは表紙で伝えたいなと思って。原画の青の背景は美術館の展示では有効だと思うんですけれども、やっぱり絵本って、エンターテイメント性も必要かなと思いました。黒バックで忠告を感じる入り口にした方がこの絵本にはふさわしいのかなと思って。キャビンさんたちも「背景は変えちゃってもいいです」とか、「トリミングもお任せします」とか、そういう感じだったので、こういうことができましたね。

ブルーシープ 草刈大介 手に取りたくないような感じがあるよね。

一同 あはははは。

髙田 デザインのところでちょっと補足をすると、文字がブレてるっていうのは、もし、親御さんが子どもに読み聞かせをする時に、どう読むのかっていうのもしかけたかった。そもそも平仮名だけで読み進めるっていうのは、やっぱりちょっと言葉が引っかかるんですよね。ゴウさんは、そういうの(平仮名だけで詩を書くこと)をあえて続けてらっしゃいますけれども、文字を少し波打った感じにすると、より読むのが難しくなってくると思うんですよね。読み聞かせる時に、お父さんやお母さんがつまったりするってことが起きたりして、そういうところも子どもの心に何か影響を及ぼすのかもしれないなと思って。実際、どのように読むのかっていうのは、委ねますけれど、楽しみにしているところではありますね。そこにデザインの希望というか、そういうことを感じたりします。最後のページだけ歪まない文字組みにしているのも、草刈さんかな、竹下さん(ブルーシープ担当者)かな、この方が良いんじゃないっていう風に言ってくれて。もう、ごもっともっていう感じで、最後に静けさが出てくるっていうか。

ウチダゴウ すごく良いですよね。

草刈 この歪んでる文字は最初に見た時にびっくりしたんだけど、どうやってデザインしてるんだろうと思ったら、もう適当に動かしてるんだよね?

髙田 そうですね。適当と計算と両方ですね。間隔は調整したりとか。

試みとして作成した、黒地をしいたデザインパターン。

髙田 実はデザインは他のパターンもつくっていて、黒ベースに文字を置くみたいな。

キャビン 阿部 それも面白いよね。

髙田 今回、黒が結構、効いていたんで、ちょっと怖さが増しても良いのかなとも思ったんですけど、ちょっと強いし。文字の方は、こういうパターンのもやってはみたんです。(下画像参照)1回やりすぎてみようと思って、自分を許して試してみたりもしましたけどもね。

さらに文字を歪ませたパターンも作成し、検証した。

キャビン 阿部 これすごいね。

髙田 ちょっとやっぱ主張しすぎるなと思って。

―やっぱり、今の形がいちばんベストですね。

髙田 そうですね。

キャビン 阿部 文字そのものを絵みたいな感じで置いてつくってるんでしょうから、面白いな。

髙田 色については、僕、林明子先生の『はじめてのキャンプ』(福音館書店)っていう絵本がすっごい大好きなんですけど、小さい頃に本当に何度も見た絵本で、色数が少ないんですよね。黄色と赤と青と黒みたいな感じで。中のページで他の色が出てくるんですけど、基本的にわかりやすい色を使ってらっしゃって。今回それを目標にするというか、本のデザインの良さを僕なりに意識していました。さっきちょっとお話ししたことにつながるんですけど、ちょうど今回はピンクと青、そういう色が引き立つように努力をしたところはありますね。

『はじめてのキャンプ』(林明子/さく・え 福音館書店)

―『はじめてのキャンプ』には、結びつかなかったです。

髙田 絶対に結びつかないですよね。それは個人的な思い入れみたいなものも乗っけながらつくっている部分がありましたね。色に関しては、今回印刷屋さんもすごい頑張ってくださった。現場の人たちもめちゃくちゃ楽しんでやってくださっていて、和気あいあいとしていて「こういう印刷屋さん、まだあるんだ!」っていう感じで。今回印刷をお願いしたTOPPANクロレさんの工場が三島にあるんですけれども、現場の人たちがめちゃくちゃ良い人たちで、良いものをつくるにはやっぱり人だなって思いました。

―すみずみまで、人なんですね。

髙田 すみずみまで、いい「気」が宿っている本なんだなっていうのを感じました。

キャビン 阿部 嬉しいですね。本当に良かったもん。初校からすごい色が出てた。僕らが指示したことも、バッチリ全部直っていた。

髙田 うんうん。結構原画に近いですよね。僕も竹下さんと一緒に見比べましたけれど、印刷でここまで近くできるんだって。本当、原画と見比べても楽しむことができるって思いますね。

キャビン 吉岡 最後の校正でピンクが、グッとよくなったよね。

“怖さ”のバリエーションが増える絵本

―髙田さんは、さっき絵本の形になってほっとしたと言っていましたが、改めてどういう絵本になったと思いますか?

髙田 そうですね、ただの怖い絵本じゃないというか。“怖い”のバリエーションを増やすっていう意味ではすごく有効な、単純ではない絵本になるだろうなって思っていました。「オバケ?」展のテーマがそもそもそういう狙いもあったので、絵本もまさに同じだなっていう感じで眺めていましたけれども。だからなんだろう、実は「怖い」っていうのは、自分の中にあるのかもしれない。外側っていうよりかは内側かもしれないみたいな、別の切り口が現れる絵本だなっていう風にも思いました。

―個性の強い2組の作家さんの調整役をされて。

髙田 ゴウさんの詩は「幸せな病い」と言いますか、持病じゃないですけれど、病気になって気づく良さもあったりすると思うような詩で。キャビンさんの場合、僕は結構グラフィックデザイナーだなって思う部分があるというか、どうしても共感してしまう部分があって。ディテールはちょっと置いておいたとしても、構図だったりレイアウトだったりとか、「ひとけのないまち ひとだらけのまち」のところなんか、もう完全にグラフィックデザインですし。レイアウトや構図を含めてめちゃくちゃ、今回特にグラフィカルで、影の落ち方もそうですし、すごく強くグラフィックを感じた。かげくんをシルエット化させるっていうところでも、ピクトグラムに近いと言いますか、そういう要素が本当にてんこ盛りなので、視覚的にもかなり印象に残るし、言葉の方からも印象に残るという意味では、すごくミラクルな絵本だなって個人的に思いながら、戦っていましたね。

キャビン 阿部 グラフィカルなんて言われたこと初めてですね。確かに今までの中で一番シンプルというか。

キャビン 吉岡 これから自分たちはグラフィカルなんだ、と思いながら生きていきます(笑)。

キャビン 阿部 髙田さんが良いことを言ってくださった。「怖さ」は自分の中にあるということ。かげくんの存在が、すごくぴったりって思いました。

キャビン 吉岡 言語化してくれた。

キャビン 阿部 なぜ、この絵本の主たるモチーフを「かげ」にしたのか、今あらためて腑に落ちた気がします。オバケは自分の外にいるようで、実は自分が内面で作り出しているもの。オバケとは、恐怖とは、自分自身の影であるという感覚を、僕らはかげくんを通して描いたのだと思います。

髙田 そういうことが子どもに伝わったら、すごいことだなって思いますけどね。

キャビン 阿部 感覚的には、何か通じるかも。

髙田 そうそう、今、言語化する必要は全然ないとは思うんですけれどもね。

キャビン 阿部 大きくなった時に、花開くようなものですね。

髙田唯 うん、何度でも楽しめるんじゃないですかね。

―本当に新しいおばけの絵本の誕生ですね。

草刈 唯さんはいつも涼しい顔してるから、緊張してたとか戦ってたとかね。いや、本当にもう、感謝感激ですよ。

髙田 いやいや、とんでもないです。ありがたかったです。こちらとしても、こんな素敵なタッグマッチを見せていただいて。一番前方で見てる試合って実は緊張しますからね。試合が終わって、良い試合だったなと思ってます。

ウチダ 本当に良い試合っていう感じ。「良い試合だった!」って、こうね、最後抱擁する。

草刈 後ろから全員をこう抱擁する。

髙田 お前らよくやったな、と。

草刈 俺もやったんだぜ、と。

ウチダ ああいう試合って、レフェリーもいち演者じゃない?

髙田 確かにそうですね。良い行司。

草刈 レフェリーもめちゃくちゃ走ってるんだよね。なんか選手の後ろで邪魔になんないように。サッカーのレフェリーとかめちゃくちゃ走ってるからね。

ウチダ 興行主もよかったっていう。興業主が良いステージを用意してくれた。

草刈 ありがとうございます。

―本当に自由な空気感のなかで、みなさんがそれぞれやってらしたっていうのが、お話を聞いていて改めて伝わってきました。

キャビン 阿部 のびのびできました。ほんと。

キャビン 吉岡 あとは、みんなに届けたいですね。

草刈 ね、本当に。安曇野と大分とそれから東京とでやり取りしながら、ゼロからものが生まれてくるって、距離の問題だけじゃなくて、人と人が集まれば、新しいものができるんだっていうこともね、知ってもらえたらいいなと思いますね。

プロフィール

ウチダゴウ

詩人、グラフィックデザイナー。してきなしごと代表。詩の執筆・出版・朗読、デザインやレタリングを始め、活動は多岐に渡る。詩集に『空き地の勝手」『原野の返事』(してきなしごと)、『鬼は逃げる』(三輪舎)。

ザ・キャビンカンパニー

阿部健太朗と吉岡紗希による二人組の絵本作家/美術家。大分県生まれで、同県由布市の廃校をアトリエにし、絵本、立体造形、アニメーションなど多様な作品を生み出す。2024年から初の大規模展「童堂賛歌」が全国巡回中。

撮影:橋本大

髙田唯 

グラフィックデザイナー。アーティスト。桑沢デザイン研究所卒業。株式会社Allright取締役。ロゴ、広告、装丁、パッケージデザインなどを手がける。国内外での個展・グループ展多数。東京造形大学教授。

草刈大介
朝日新聞社勤務を経て、2015年に展覧会を企画し、書籍を出版する株式会社「ブルーシープ」を設立して代表に。PLAY! MUSEUMのプロデューサーとして展覧会、書籍のプロデュース、美術館や施設の企画・運営などを手がける。

『せんめんじょできっちんで』

2025年7月10日(木)発売

定価:税込1,980円(本体1,800円+10%)
文:ウチダゴウ
絵:ザ・キャビンカンパニー 
編集:ブルーシープ
ブックデザイン:髙田唯
印刷・製本: TOPPANクロレ株式会社
仕様:B5変型、上製、34ページ
ISBN: 978-4-908356-72-8

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