「オバケ?」展をきっかけに生まれた、異色のオバケ絵本『せんめんじょできっちんで』。
詩人 ウチダゴウ、絵本作家 ザ・キャビンカンパニー(阿部健太朗、吉岡紗希)、デザイナー 髙田唯と、版元のブルーシープ(草刈大介、竹下ひかり)が絵本づくりについて語り合いました。安曇野、大分、東京をオンラインでつないで繰り広げられた、絵本ができるまでのもうひとつの物語。3回に分けて、お届けします。
聞き手・構成・文/天田泉
*敬称略

左上から右下へ天田、竹下、ウチダ、ザ・キャビンカンパニー、髙田、草刈。

―この絵本ができるまでの経緯がまずユニークですね。「オバケ?」展では、最初の部屋にウチダゴウさんの詩とザ・キャビンカンパニーのおふたりの絵のインスタレーションに、いきなり引き込まれました。最初、ウチダさんにオバケ展の “背骨” になるような詩を、という依頼があったそうですが、そこから「せんめんじょできっちんで」の詩を書くまでのお話をうかがえますか。


ウチダ ゴウ もう、1年以上前のことですよね。どういういきさつでしたっけ?
ブルーシープ草刈 「オバケ?」展のコンセプトがだんだん決まっていくなかで、展示の内容が広がっていって。初期から、一緒に展覧会をつくっていたAllrightの髙田唯さんと、何か「オバケ?」展の合い言葉というか、この展覧会を見るための気持ちや態度などを最初に言葉で教えてもらうと、観てくれる人たちは迷子にならないんじゃないかなと話していて。その言葉は「オバケ?」展の背骨になるような詩みたいなものがいいなと。それでゴウさんどうかな?となったんですよね。
髙田唯 そうですね。展覧会に言葉があるといいなっていうことで、以前からお付き合いのあったゴウさんの名前は、割と早い段階から出ていたんじゃないかと思います。
ウチダ おばけの詩じゃなくて、おばけを感じる詩を書いてくれっていうシンプルなオーダーだったんですよね。しかも、展覧会でもおばけが怖いものなのか、そうでないのかっていうのは、美術館に来る人が自分で感じて決めるわけです。そうすると、入口の詩も具体的なおばけは登場できないし、「良い」「悪い」とか、「怖い」「怖くない」とかではない。観る人たちが読んで、勝手にそれぞれおばけを感じるものを書かなきゃいけないっていう。僕は難しい方が好きなので、燃えるお題でした。
―日常に潜んでいる感じが面白くて、タイトルも一度聞いたら忘れられない詩ですね。
ウチダ 普段生活してる中でみんなが知っている時間とか、空間だったりで書こうと思いました。「せんめんじょできっちんで」っていう言葉自体は、ただの場所の名前なんですけど、「オバケ?」展でこの1行を見ただけで、みんな勝手に何かはじめちゃう。
―想像力がかき立てられますね。
ウチダ 僕の詩は、読む人や聞く人が自ら意識してなかったどこかを弾いてしまう。読む前・聞く前には戻れないみたいなね、そういういたずらが好きなので(笑)。「せんめんじょできっちんで」も、日常の風景から描くんだけど、これを読んだ後にちょっとその風景が変わってしまうような一編になったらいいなと思って書きましたね。おばけをテーマにした詩なんだけど、向こうには社会性とか時代性みたいなものもどこかに忍ばせた。勝手に自分でこしらえちゃう人がいてもいいと思って、余地もつくって書きたいなっていう。
―ゾクゾクしたのが「えたいのしれない じぶん」とか、「ぜんぶしってる うしろすがた」の場面です。日常からすごく広がったというか、本当に社会とか時代とか勝手に想像していました。
ウチダ 「こういう時代はならん!」みたいに書いちゃうと、「そうだ!」って喚起する人と、「なんだこいつ!」って抵抗する人が出てきちゃうんだけど、勝手に自分でそう思ってもらう。こっちから強制的するんじゃなくて、自ずとそう思ってしまったら、最後だよねっていう。
―絵本を読んだ後、良い意味で違和感が残りました。
ウチダ 読んだ後に、洗面所に行って顔洗う時に「鼻が口がちょっと?」とか思ってくれたら楽しいよなと思います。世の中、固定観念とか既成概念とか、何も疑わずに「これはこうでしょ」って思ってることがすごく多くて。でも、本当は何も決まってないわけですよね。その間におばけが存在するねって感じがして。
―この詩は、依頼から2週間くらいで書き上げたそうですね。
ウチダ 締め切りは3月中にって言われて、でも僕、2月中に送った。「これじゃダメ」って言われたら、書き直す時間がほしいなと思って。あとは、僕は来たらすぐやりたい質なんです。
―インスピレーションが、すぐにわき上がってくる感じですか?
ウチダ 頭の中がそれになっちゃうので、もう早くやりたい。あんまり寝かせることが得意じゃない。
―依頼をした草刈さんは、最初にこの詩を読んでどう感じましたか?
草刈 圧倒されたっていうのが第一印象かな。とんでもないのが来るなって(笑)。タイトルに「おばけ」の「お」の字もないわけなんだけれど、「ああ、そうか」と思った。普通の読者として読む、あるいは展覧会の企画者として読む、そして、展示のデザインみたいなことを考えながら読むと、何回か読んでるうちに頭の中で視覚化するっていうことが起こるじゃない?洗面所からキッチンへ、そこからさらに外へ出て、という風に情景が変化していくのをイメージした時に、なんかこれどこかで見たことがあるなって思ったのね。それは『がっこうに まにあわない』(ザ・キャビンカンパニー/作・絵 あかね書房)だったわけですよ。そうだ、この詩にこういう絵がついたらさらに面白いっていうか、それを見たいなって思って。


ザ・キャビンカンパニー 吉岡紗希 『がっこうに まにあわない』を見てくれてだったんですね。
草刈 そう。その前の年の12月とかに大分にキャビンのふたりを訪ねていて。ちょっと距離が近かったってこともあるとは思うけれど、はっきりと男の子が走ってくるみたいな情景が浮かんだんですよね。

ザ・キャビンカンパニー 阿部健太朗 「とんでもない詩が来た!」という内容のメールが、草刈さんから届きましたもんね。これは僕らも答えなきゃと思ったぐらいの激熱メールでした(笑)。
キャビン 吉岡 メールとともに、このゴウさんの詩を読んで。で、もう描きたい! って。
キャビン 阿部 僕らの世界観にすごい近くて、これは僕らのための詩かと思った。もう描けるなってその時はすぐ思ったんだけど、実際描こうとしたら難しかった(笑)。
草刈 でね、キャビンさんに話をする前に、当然、ゴウさんに詩に絵をつけるってどうだろうって聞いたんだよね。「ザ・キャビンカンパニーって知ってる?」って聞いたら、「知らない」って言うから、キャビンさんの絵本を何冊か注文して送ったの。そうしたら、ゴウさんに届く前に「わかった、ぜひやってもらおう」って返事がきた。そんな感じだったよね。
ウチダ 草刈さんにその時、メールで返したのは、僕がすごく精魂を込めて作物をつくったんで、それをそのままガリッと味わってもらうのが良いんだけど、さらに料理して、フレンチにしたり、和食にしたり、それもまたおいしいから、もう自由に面白くやってくださいって伝えた。詩だけで、ひとつの作品にはなっているんだけど、そこに絵がのってきた時にもうひとつ違う作品として詩が登場するっていう、僕はそういうのが好きなので。
―絵本が届く前にOKを出されたのは、ご自分でキャビンさんの作品を何かご覧になったんですか?
ウチダ サイトは見たと思うんですけど、それを見て「じゃあ、大丈夫でしょう」って思ったからとかじゃなくて、こんなこと言ったらあれだけど、何でもいいっちゃなんでもいいっていうか(笑)。どうなるかが楽しいので。
―委ねてみたい?
ウチダ そうですね、この詩がどうなるんだろう? みたいなそこを楽しみたい。この人はこういう絵を描いてるから大丈夫だろうっていうのがもしあったとしたら、僕はどっちかというとつまらなくなっちゃうかもしれないですね。誰と一緒にやったとしても、この詩自体は壊れないっていう自信っていうとちょっとあれだけど、何かがあるので。キャビンカンパニーの二人がいる前で言うのもあれだけど、仮に絵がひどくなったとしても、それは僕の詩のひとり勝ちになるだけだから、それはそれで構わない(笑)。でも、そんなことにはならないと思うっていうぐらいの気持ちで、もう全然好きに料理してくださいって言ったんだと思いますね。
詩を書くことと、絵を描くことは似ている
キャビン 吉岡 怖さはありました。詩って、これ以上の説明はいらないかなって。私たちは絵をつけたいけど、つけてもいいのかなっていう恐れを感じながら描きました。
草刈 詩に絵をつけるって、すごく難しい作業だよね。
ウチダ 難しいと思います。逆に、絵があってそれに詩をつけるのも大変だって思いますね。詩って一般的には多分、文学の1ジャンルだと思われてるんですけど、詩の創作の中で起こることって、一番絵に近いなと思っていて。だから、小説家と詩人はあまり同じ作業をしてない気がするんですけど、詩人と画家はほぼ一緒じゃないかなと思っていて。そうすると、ほぼ同じ創作をしているわけですよね、詩と絵が。そこを並べるのは結構難しい。ここががっぷり四つ戦えるかっていうのは、組む各々の力量だよねっていう、その勝負というかコラボが楽しいんです。
キャビン 吉岡 私たちも、言葉を書くことと絵を描くこと、詩を書くことと絵を描くことってめっちゃ似てるなって話す時があります。絵本をつくる時、洗練された単語で絵とケンカしないような文を書こうと思っていて。さっきゴウさんが言ったように、絵の具みたいだなと思いながらいつも言葉を選ぶんです。
キャビン阿部 僕らは最近、自分たちの詩と絵で構成したインスタレーションみたいなことをするので、そういう時は本当に言葉自体も絵の具に見えるんですよね。こっちに単語を置いて、こっちに絵を置いて、それでひとつの絵画ができるみたいな。絵の具と言葉が同じように見える時がありますね。
草刈 今、言葉が絵の具なんだって聞いて、わっ、すごい面白いなって思ったんだけど、ついこの間、ある絵描きの人が絵の具は音符だって言ってた。音符を並べるように絵の具を選んで絵を描いてるって。
キャビンふたり ああ、音にも確かに似てる。
ウチダ わかるなあ、それ、詩もそうなんだよね。
キャビン阿部 詩って、ひとつの言葉を見た時にいろんな感じ方ができるじゃないですか。音符とか色もそうですけど。しかも自分が試されるというか、自分が今まで培ってきた感情とか経験によって、跳ね返ってくるみたいな感じがある。
キャビン 吉岡 手取り足取り説明的になっていないからこそ、能動的に動く力も試される。
キャビン阿部 曖昧なまま表現できて、受け取る側も曖昧なまま受け取れるっていうのがすごくいいところ。理解を超えたところにある表現なんじゃないかな、詩と絵と音楽ってのは。
キャビン 吉岡 絵は一見で、パッと見えすぎてしまうからそこも難しくて、描きすぎると本当に面白くない。例えば、初めて「竜宮城」の絵を見たら、もうその子の竜宮城はその絵の竜宮城になっちゃう。
キャビン阿部 言葉だけの方が良かった、みたいな時ありますよね。「きらびやかで、珊瑚が舞い踊って、光がさして……」とか、文章で読んだ時に「どんな竜宮城なんやろう?」って思ってたのに、次のページにあった挿絵がこぢんまりしたものだと、広がった心がシュンってなってしまうことがあると思うので、絵描きは責任重大ですね。
キャビン 吉岡 さっきも言ってたけど、ゴウさんの詩に、曖昧な恐ろしさとかどっちに取られても良いような広さがあったんですよね。これはもう絵が描きやすいだろうと思って描きはじめた。おばけっていうテーマと詩も合ってるなと思って。直接的におばけの顔が出て怖いだろうっていうよりも、この曖昧さで運んでいくのが詩はすごくいいなと思って。
フルスイングで打つつもりで描いた、子どもの顔
―最初は絵本ではなく、「オバケ?」展のために、詩に対して1枚の大きな絵を描いたんですよね?
キャビン阿部 そうそう。このでっかい絵にするのも色々考えた気がしますね。最初の案は絵じゃなかったし。机を置いて、机の上に絵を描いてそこに座らせる、とか。
キャビン 吉岡 空間でインスタレーションにしていくとかもあったんやけど、間とか空気とかを最初の部屋で感じてもらって考えてもらう方が良いなと思って、1枚のタブローにしたんです。
キャビン 阿部 ゴウさんの詩が強いので、小細工せずにそれこそ勝負じゃないけど、対決させるしかないなと思って。
キャビン 吉岡 もう、顔面を描くしかないなと思ったんです (笑)。
ゴウ あははは(笑)。
―真正面の顔の絵って、すごい迫力ですね。
キャビン 吉岡 この絵は、おばけの顔じゃないんですよね。おばけを見て何かを感じている子どもの顔です。展覧会に来た人が、会場に入って、色んなものを観て、何かを感じているのを表現したかった。

「オバケ?」展のインスタレーション(PLAY! MUSEUM 2024年)
草刈 展覧会の入口でおばけを感じてもらうってことに対する答えをちゃんと導き出せるのは、すごい。確かラフを送ってきてくれたような気がするんだけど。
キャビン 阿部 この顔をいちばん最初に描いたね、このちっちゃいラフ。そのあと何度か描き直したけれど、なかなか最初の絵を越せなかった。実際の絵は60号くらいに描いたんだけど、結局、最初のラフをプロジェクターに投影して描いたんです。
ウチダ 僕、最初にあの絵を見た時、めっちゃ嬉しかったな。ちょっと話がズレますけど、僕は普段、「してきなしごと」っていう屋号でやっています。僕の詩や、やってる事とかは、ぱっと見、変化球を投げているように思われるんだけど、僕の中ではずっと、誰も見たことのないストレートを投げたいと思ってやっている。今回も、誰も見たことのないストレートを投げたら、ものすごい普通にフルスイングで打ってきたっていう感じがあって、「おお、きた!」みたいな(笑)。だからあの絵がすごいう嬉しかったですね。勝負、勝負っていう感じが楽しくて。


インタビュー『せんめんじょできっちんで』ができるまで
②「詩から絵本へ」は9月3日(水)に公開します。お楽しみに!
プロフィール

ウチダゴウ
詩人、グラフィックデザイナー。してきなしごと代表。詩の執筆・出版・朗読、デザインやレタリングを始め、活動は多岐に渡る。詩集に『空き地の勝手」『原野の返事』(してきなしごと)、『鬼は逃げる』(三輪舎)。

ザ・キャビンカンパニー
阿部健太朗と吉岡紗希による二人組の絵本作家/美術家。大分県生まれで、同県由布市の廃校をアトリエにし、絵本、立体造形、アニメーションなど多様な作品を生み出す。2024年から初の大規模展「童堂賛歌」が全国巡回中。
撮影:橋本大

髙田唯
グラフィックデザイナー。アーティスト。桑沢デザイン研究所卒業。株式会社Allright取締役。ロゴ、広告、装丁、パッケージデザインなどを手がける。国内外での個展・グループ展多数。東京造形大学教授。
草刈大介
朝日新聞社勤務を経て、2015年に展覧会を企画し、書籍を出版する株式会社「ブルーシープ」を設立して代表に。PLAY! MUSEUMのプロデューサーとして展覧会、書籍のプロデュース、美術館や施設の企画・運営などを手がける。
『せんめんじょできっちんで』






2025年7月10日(木)発売
定価:税込1,980円(本体1,800円+10%)
文:ウチダゴウ
絵:ザ・キャビンカンパニー
編集:ブルーシープ
ブックデザイン:髙田唯
印刷・製本: TOPPANクロレ株式会社
仕様:B5変型、上製、34ページ
ISBN: 978-4-908356-72-8
【取扱店】
全国の書店
「オバケ?」展 会場ショップ
【オンライン販売】
Blue Sheep Shop
楽天ブックス
Amazon